仮面のロマネスク (宝塚宙組 中日劇場)

ミュージカル
『仮面のロマネスク』

-ラクロ作「危険な関係」より-
脚本/柴田侑宏 演出/植田景子
中日劇場公演
公演期間:2012年2月1日(水)~2月24日(金)


 原作の「危険な関係」は近代フランス心理小説の傑作。しかしそのスキャンダラスな題材ゆえに世間からは長く異端視された禁断のラブ・ストーリーである。
1997年に、高嶺ふぶき、花總まりにより上演し、以後、再演の呼び声が高かった作品。
動乱に揺れるフランス宮廷を舞台に、美貌の青年貴族ヴァルモンと若き未亡人メルトゥイユ侯爵夫人の冷徹で官能的な恋の駆け引きを、心に仮面を被らなければ生きていけない男女の姿の中に華麗に重厚に描く。


2012年2/26(木)に日帰りで遠征観劇した。
1年半遡って感想を書きます。



原作の「危険な関係」は、1782年に発表されたコデルロス・ラクロの書簡体小説。
ヴァルモン子爵、メルトゥイユ公爵夫人は同情の余地のない悪人として描かれ、小説の終わりでは、ヴァルモンはダンスニー男爵との決闘で落命、美貌を誇ったメルトゥイユ夫人も天然痘に罹って(心と同様に醜い容貌)に変わって、悪事を働いた者たちに天罰が下る。


もちろんこれでは宝塚の舞台には似合わない。
原作では1780年代のフランス革命直前を舞台としているが、そこから50年後の1830年代に変更した。

フランス革命(1789-1794)→第一共和政(1792-1804)→第一帝政(-1814)→復古王政(-1848)→第二帝政(-1870)→第三共和政(-1940)→ナチス侵攻

フランスの歴史の流れでいうと復古王政の時代、仮面のロマネスクのラストシーンで(負けると分かっていても、王宮を守らなくてはならない、それが貴族としての自分の役目だ)とヴァルモン子爵がつぶやくのは、1830年の七月革命のことと思われる。

ヴァルモン子爵家は零落していたが、ヴァルモンの才覚によって家を立て直して貴族社会に返り咲いている。
ところで爵位は、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順だから、メルトゥイユ侯爵夫人(野々すみ花)の方がヴァルモン子爵(大空祐飛)より身分が高いのですね。
それにしても古今東西、貴族社会は貞操観念がゆるい。
結婚している夫婦がそれぞれ他に愛人を持っていることも珍しくなかった。14、15で親が決めた相手と結婚して貞淑な妻として一生を過ごすのが貴族の女性の普通の生き方だった。だから贅沢に暮らし、離婚や結婚に結びつかない恋愛を楽しんだのでしょう。

メルトゥイユ侯爵夫人は若くして既に未亡人。夫は戦死したのか年が離れていたのか、多分両方なのではないかと思う。
未亡人になった彼女ですが実家に戻る、或いは再婚をする気などはありません。爵位と資産のために結婚をしたのだから、それを手放すわけにはいかない。

何年か前にヴァルモンとメルトゥイユ夫人は熱愛関係にあった。
今よりももっと若かった二人は恋愛を楽しみながらも、お互いの了解のもとに他の恋愛もしていたようです。
メルトゥイユの当時の恋人はジェルクール伯爵(悠未ひろ)だった。
このジェルクールという男はメルトゥイユの思い通りにはならなかったらしい。彼女はジェルクール伯爵に捨てられ、その時にジェルクールはヴァルモンが付き合っていた別の女性にも(ちょっかい)を出したという経緯もあり、ジェルクールは二人にとっては共通の敵というわけです。

メルトゥイユ公爵邸で開かれた舞踏会で、メルトゥイユはブランシャール夫人(梨花ますみ)の令嬢セシル(すみれ乃麗)がジェルクール伯爵と婚約したことを知って心穏やかではない。なんとかして一矢を報いたい彼女はヴァルモンにセシルを誘惑して欲しいと頼む。
ところがヴァルモンは気乗りしない様子。
彼は舞踏会で見かけた法院長(寿つかさ)の妻トゥールベル夫人(藤咲えり)に惹かれたのだ。


初演の高嶺・花總は、見た目の美しさと、宝塚風の芝居に徹していたので、色悪としてのヴァルモン、無表情で何を考えているか読めない謎めいたメルトゥイユという役作りが冴えていた。
それと比較すると、大空・野々は美麗さでは初演には及ばないが芝居に奥行きがあった。友人関係を装いながら、ちょっとした所作でふたりが以心伝心であることを上手く見せていたし、ヴァルモンは色悪というよりは誠実な色男に、そしてメルトゥイユの内面の深い孤独をきっちり演じていた。

法院長は、舞踏会の会話から察するとパリ高等法院の裁判長である。
宙組組長・寿つかさが演じているため人格高潔に感じるが、裁判官の肩書きは国王に税金という形でお金を払えば誰でも就任できたらしい。しかし、ここでは法院長は人格高潔の人でトゥールベル夫人も文字通り貞淑な妻である。
藤咲えりの演技が光っていました。初演のトゥールベル夫人・星奈優里に比べると地味な印象ですが、大空・野々とはバランスがとれていましたね。野々すみ花もそうですが藤咲えりの深みのある声が素晴らしい。

ダンスニー男爵(北翔海莉)はメルトゥイユ夫人からセシルを紹介されて一目惚れ、ところが同時にセシルがジェルクール伯爵と婚約していることを知ってがっかりする。ジェルクール伯爵がセシルに愛情を感じていない様子、尊大な態度、すべてが気に入らない。
法院長がパリに長期出張の間、トゥールベル夫人がロワール地方のローズモンド夫人(美穂圭子)邸に滞在することを知ったヴァルモンはにやりとする。

ヴァルモンはローズモンド夫人の甥だった。だからローズモンド邸を訪問するのになんの不都合もない。ヴァルモンは誠実で可愛い甥という仮面を被って、ローズモンド邸を訪れそのまま滞在してしまう。
一方、ダンスニー男爵とセシルはこっそり手紙を交換しあうプラトニック・ラブの真っ最中。
セシルを心配した母親のブランシャール夫人は、ダンスニーと引き離すために娘をローズモンド邸に預かってもらうことにした。
ヴァルモン、トゥールベル夫人、セシルはロワールのローズモンド邸に、メルトゥイユと、セシルと引き離されたダンスキー男爵はパリに残った。

ヴァルモンはロワールのローズモンド邸でトゥールベル夫人を口説き落とすことに精魂を傾けていたが、セシルの母親からローズモンド夫人に「ヴァルモンは素行が悪いから気をつけて欲しい」と手紙があったことを知り、またメルトゥイユからは「セシルをものにしたら、私を貴方にあげる」とそそのかされて、セシルにも手を伸ばすことを決心した。


パリとロワール。
電話がなかった時代、お互いの近況を知る手段は手紙だけ。原作の「危険な関係」が書簡体小説なのはそのためである。
セシル(すみれ乃麗)は本当に可愛らしくて、まさに修道院を出たばかりの乙女でした。当時の女子修道院は女学校の役割もしていた。社交界にデビューする直前まで文字通り虫がつかないように守っていた。
メルトゥイユから頼まれたとはいえ、うぶな少女に手に掛けるヴァルモンに同情の余地はない。

初演ではヴァルモンは二人の女性をモノにすることを楽しんでいるように見えた。しかし大空ヴァルモンは、メルトゥイユとの賭けを楽しんでいるようには見えなかった。高嶺と大空では持ち味が大分ちがうから、あえて演出を変更したのだろう。

ヴァルモンに迫られて初めは嫌がっていたものの、やがて恋心が芽生えた貞淑なトゥールベル夫人は、ローズモンド邸からパリの自宅に逃げるように戻るが、夫の法院長からは当分パリには帰れないと連絡があった。
夫の胸に逃げ込もうとしたメルトゥイユは逃げ場がなくなり、ヴァルモンに陥落してしまう。

ヴァルモンは、セシルもトゥールベル夫人もモノにしたとメルトゥイユに報告した。
「だから、あの約束を果たして欲しい」 冒頭のあのシーンである。
しかし、ヴァルモンのトゥールベル夫人への愛を嗅ぎとったメルトゥイユは怒り、自分と二股をかけることは許さないと彼を拒絶する。


舞踏会の夜。ヴァルモンは法院長の手からトゥールベル夫人を奪って踊り始めた。トゥールベルが幸せに酔いしれた瞬間、ヴァルモンは彼女を手を振りほどいてメルトゥイユに手を差し伸べる。
ヴァルモンに遊ばれ、捨てられたと知ったメルトゥイユ夫人はその場に内伏してしまう。
夫人を抱き上げて静かに退場する、寿つかさ・法院長がオトナでしたねぇ。
原作ではメルトゥイユは狂死してしまうのですが、宝塚では彼女は修道院へ身を隠して消息が知れなくなったことにしている。でも法院長の懐がとてつもなく広そうで、夫人の一時の気の迷いということで済みそうな雰囲気だった。

庶民やブルジョワ階級は、国王と貴族に対抗して革命を起こそうとしていた。
セシルの婚約者ジェルクール伯爵は、暴動を鎮め、国王を守るために国内外を駆けずり回っていた。だから、ヴァルモンとセシルの秘密やダンスニー男爵との関係にもまったく気づいていなかった。

ヴァルモンがメルトゥイユ夫人の邸を訪問すると、なんとそこにはダンスニー男爵がいた。
メルトゥイユはいつの間にかダンスニー男爵をモノにしていたのである。


メルトゥイユはなぜダンスニーを自分の情人にしたのだろう。
無垢の象徴であるセシルとダンスニーは、メルトゥイユとヴァルモンとは両極の位置にいる。ジェルクール伯爵への仕返しというだけでなく、二人を世俗の塵にまみれさせたかったのか。
ヴァルモンに寝室に乗り込まれ、ダンスニーと一緒のところを見つかったメルトゥイユは、あろうことかヴァルモンがセシルを抱いたとダンスニーに告げてしまう。
大空ヴァルモンは文字通り目を剥いて、しかしかっとしたダンスニーが決闘を申し込むと諦めたように承諾した。
本当に難しい芝居だと思う。初演から15年経ってようやく再演することができたのは、ベテランの大空に演技力抜群の野々だからこそ。

ここからの展開は原作から離れる。
市民の暴動は抑えがきかないところまで進展し、貴族たちはパリから離れざるを得ない状況となった。
フランスから外国へ逃れることを決めたメルトゥイユ夫人はがらんとした邸の広間でヴァルモンを思っていた。
そこに軍服に身を包んだヴァルモン子爵が登場する。
決闘は行われたが、ヴァルモンもダンスニーも空を撃ち傷つくことはなかった。
メルトゥイユは外国へ旅立つことを、ヴァルモンは国王を守るために登城する・・死地に赴くことを告げた。
二人は向き合い、会釈し、互いの手を取り、残された時間を二人だけで踊り続ける。


エンディングの「あなたがいるから」は何度聞いてもテンションが上がる。
こんなにも悪い人たちなのに、この曲がかかった途端にすべて許せる気持ちになれるのが宝塚。

あなたがいるから 苦しくて
あなたがいるから 衷しくて
あなたがいる から 恋しくて
あなたがいるから 生きていられる


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by laladuets | 2013-08-08 01:00


観劇の感想を書くことにしました。


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